東京高等裁判所 昭和26年(う)6086号 判決
弁護人控訴趣意第一点(証拠なくして事実を認定した違法)について。
原判決が事実として被告人が昭和二十五年六月四日施行の参議院議員選挙の選挙人であるところ同年五月十二日頃原判示大野屋で成田源一郞、田沼弥七郞から候補者大島秀一の為選挙運動を依頼されその報酬たる情を知り乍ら現金二千円の供与を受けた旨判示し、証拠として、被告人の供述、成田源一郞、田沼弥七郞及び被告人に対する検察官作成の各供述調書を挙示しているのであるが、右挙示の証拠を精査しても、前段の被告人が右選挙の選挙人である旨の何等の記載がないことは所論のとおりである。
而して第二回公判調書の記載によれば、検察官は証拠により証明すべき事実の第一として被告人が右選挙の選挙人であつた事実を掲げており、本件公職選挙法違反事件としては、右の事実は重要な構成要件事実であることが明らかであるから、右の事実は検察官が証拠によつて証明されなければならない事項であつて、選挙権がないこと等反対の事情がない限り、右選挙の選挙人であると認むべきであるとの事実上の推定によつて、右事実の証明があつたものとすることのできないことも所論の通りである。従つて原審には検察官からこの点の立証がないのに証拠にもとずかないで、右事実を認定した違法があり、結局証拠理由に不備があるに帰するので、所論は理由があり、原判決中有罪部分は既にこの点において破棄を免れない。